大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和50年(借チ)2008号 決定

申立人

中川捨松

右代理人

服部須思茂

相手方

島田光春

右代理人

綿引光義

主文

一  申立人、相手方間の別紙目録記載(一)の土地に対する賃貸借契約の目的を堅固建物の所有に、期間を本裁判確定の日から三〇年に、賃料を本裁判確定の月の翌月以降月額一万七〇九一円に、それぞれ変更する。

二  申立人は相手方に対して金七五三万円の支払いをせよ。

三  申立人が相手方に金五〇二万円を支払うことを条件に、申立人が別紙目録記載(一)の土地の賃借権を東京都品川区五反田八丁目三番一六号小沢物産株式会社に譲渡することを許可する。

理由

一本件申立の要旨

申立人は、相手方から別紙目録記載(一)の土地(以下、本件土地という)を賃借して右土地上に同目録記載(二)の建物(以下、本件建物という)を所有しているが、その借地条件は、普通建物の所有を目的とし、現賃料月額四〇三五円、残存期間昭和五一年九月一三日までである。

本件土地は、南側を公道に接しているほかは三方を主文第三項記載の小沢物生株式会社(以下、小沢物産という)が相手方およびその母から買受けた土地に囲まれており、都市計画上の商業地域、防火地域指定を受け、付近の建物は高層化が進められ、現に借地帯を設定するにおいては堅固建物の所有を目的とするのを相当とするに至つている。

申立人は、本件土地の借地条件を堅固建物所有の目的に変更のうえ、本件建物および本件土地の借地権をともに前記小沢物産に譲渡したいが、相手方との条件変更の協議が調わず、また右譲渡が相手方の不利となるおそれがないにも拘わらずその承諾もえられない。

よつて、借地契約の目的変更および借地権譲渡について賃貸人の承諾に代る許可の裁判を求める。

二当裁判所の判断

(一)  本件各申立の当否

本件資料によれば本件申立の要旨記載の事実が認められ、他に本件申立を排斥すべき事情も認められないから、本件各申立はいずれもこれを認容すべきものと考える。

(二)  附随処分

(1)  借地条件変更について

鑑定委員会は、本件土地の更地価格を平方米当り六一万円、その二割が底地割合と評価し、右による本件土地の底地価格に対する年六分の利回りによる収益から現在の公租公課の年額を控除した額を年間純収益とし、その三〇年分から中間利息を差引いた八九六万円をもつて本件借地条件変更の場合における財産上の給付とすべき旨の意見書を提出した。

当裁判所も、本件借地条件変更については当事者間の利益の衡平をたかるため申立人に財産上の給付を命じるのが相当と考える。しかしながら、鑑定委員会の右意見は、本件土地の底地価格を元金と同視し、その金利のみによつて本件給付額を把握しようとする点で評価が一面的である。本件においては、さらに借地条件変更によつて借地人にもたらされる土地利用効率の増加分たる利用面における利益の調整という側面も考慮の必要があるものというべく、右意見には必ずしも同調できない。そこで、当裁判所としては、右の点を考慮のうえ、従来の裁判例および本件賃貸借の従前の経過等諸般の事情を斟酌し、鑑定委員会の評価による本件土地の更地価格六二七四万四六〇〇円(61万円×102.86)の一二パーセントに当る金七五三万円(万円以下、四捨五入)をもつて本件給付額とすべきものと考える。

また、借地条件変更に伴い、本件土地賃貸借の期間を本裁判確定の日から三〇年に、賃料を鑑定委員会の意見に従つて本裁判確定の月の翌月以降月額一万七〇九一円に、それぞれ改める。

(2)  借地権譲渡について

借地権譲渡の場合においても、当事者間の利益の衡平をはかるため申立人に財産上の給付を命じることを条件としてこれを認めるのが相当である。

鑑定委員会は、本件土地の更地価格に対して条件変更のの場合の借地権割合八割と譲渡の場合の借地権割合六割の差を乗じた額から条件変更の場合における給付額を控除した金三五九万円をもつて財産上の給付とすべき旨の意見書を提出した。しかしながら右算定方式の合理性についてはにわかに首肯く難く、むしろ本件の場合における財産上の給付額としては、慣習上の名義書替料ないし従来の裁判例の傾向を考慮のうえ、本件土地の前記更地評価額に対して鑑定委員会の意見による条件変更の場合の借地権割合八〇パーセントを乗じた借地権価格の一〇パーセントに当る金五〇二万円(6274万4600円×0.8×0.1、万円以下四捨五入)をもつて相当と考える。

(三)  よつて、主文のとおり決定する。 (鷺岡康雄)

〈別紙目録省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例